電磁制動入門
Introduction
電磁制動は破綻するものだという教えをどれくらいの人が理解しているのだろうか。あの
アキュフェーズのパワーアンプにずらりとならんだパワートランジスタ群を見て、誰もなにも感
じないのだろうか。
明らかにあれは世にあるどんなハイエンドスピーカーに対してでも電磁制動をかけてみせ
るという決意のようなものに違いないが、本当にそれで大丈夫なのだろうか。
電磁制動アンプは一般にはNFBのかかった電圧制御アンプのことである。つまりアンプの
出力の電圧をNFB制御しているのであるから、その電圧については何が起ころうと機器に余
裕のある限り正確である。この考えを推し進めてゆくと、アキュフェーズのようなアンプになる。
しかしそれはパッシブな電磁制動の極限ではあっても、その動作はアクティブな速度制御を
超えることはできないのである。
磁気回路を強力にしてQeを小さくしたスピーカーは、コーンに生じるfo共振を電磁制動によっ
てよく抑制する。それはアンプがスピーカーに電圧を送り動けと命令していないときは、自分の
ブレーキによって速やかに停止するしくみである。
入力は4波バースト
fs=100Hzの密閉スピーカー
観測しているのは速度波形
たとえば電磁制動のないシステムではこのように波形はすぐには収束しないが、
電磁制動がかかると、このように比較的すみやかに収束するのである。
しかしその収束のさせ方は、アンプが出力する信号電圧をゼロにして、あとはひたすら
磁気回路のもつブレーキに頼って振動を止めようとしているに過ぎない。
もし貧弱なアンプを使っているとすると、このときに信号電圧はゼロに保たれている保障
はない。スピーカーから流れてくる電流によって、出力端子に電圧が発生してしまうからだ。
以上は理想的に電磁制動がかかったときの話である。現実の世界ではスピーカーはも
っと凶暴な存在であり、アンプは頼りないものだと考えたほうが良い。
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昔誰かがこう言っていた。「アンプはスピーカーに動けと命令することはできるが、止ま
れと命ずることはできない。」
その考え方は自動車の動作に通ずるものがあり興味深いのだが、電気の世界では一応
それに反する例が存在する。
それはアクティブな速度制御という考え方である。
加速は能動、減速は受動・・・という先ほど述べた仕組みに対して、
加速は能動、減速も能動・・・というしくみももちろん存在する。それは速度型MFBである。
それは先ほどのバースト波による解析を詳しくみてゆくと証明できるのである。
アンプの出力電圧を見ると、電磁制動アンプでは入力信号どうりに動いているが、MFBが
かかっていると、アンプの出力に振動を止めようとする逆の電圧が発生しているのが観察され
る。
アンプの駆動能力を制動能力としても使えるので、小さいアンプでも恐るべき制動力を秘
めたアンプが作れる可能性がある。
例 速度型MFBを使用したR−SG7